第二話・潜入




 アゼリアタワーは石橋近辺でも特に風光明媚な建物である。
 屋上に設置されたアンテナは真鍋社長によると「我々が宇宙と交信するためのものではありません」とのことだが、訊かれてもいないことをあえて否定する態度に疑惑は深まっている。
 そして、我々はアゼリアタワーの入り口にいた。
 「ここの6階デスね」
 ビルの案内板の「6階 エコールソフトウェア」の文字を確認し、8人のクリムゾナーはエレベータホールに足を踏み入れる。
 壁には「立ち小便するべからず」と言う文字と意味不明な鳥居の記号が書かれた張り紙が張ってあった。鳥居の記号はともかく、聖地のエレベータホールで立ち小便をした不届きな輩がいるということなのだろう。
 9人乗りエレベータに乗り込み、6階へ向かう。

 「ピンポーン、ピンポーン……」
 エレベータのドアが開くと同時に、狭いエレベータホールにチャイムが鳴り響いた。しかし前情報としてチャイムの存在を知っていた我々は臆することなく、扉の前に向かう。

 扉には、一枚の告知が張られていた――



デスクリムゾン2
プレビュー99


 デスクリムゾン発売3年を記念して 
 本日8月6日、デスクリムゾン2 
 特別プレビューイベントを開催します 

 1回目 午後2時〜午後2時30分 
 2回目 午後3時〜午後3時30分 
 人数 各回6名まで 

 参加を希望する方は開始5分前に 
 この場所に集合してください 

 株式会社エコールソフトウェア 
  真 鍋 賢 行 





 「プレビュー……イベント……?」
 だれかがやっとの事で口を開く。
 「な、なんでしょう……。もしかして、画面を見せてくれるんでしょうか……?」
 「だったら凄いデスね……。プレジデントにお会いできるかも……?」
 想像以上の展開に戸惑うクリムゾナー達。
 ふと、かちゃり、と音がして、扉が開いた。
 「あら、いらっしゃい」
 そして、おもむろに一人の女性が姿を現した。
 「あ、赤阪さん……!」
 誰かが裏返った声を出した。
 確かにそこに現れたのは、エコールソフトウェアのグラフィック担当・赤阪幸子さんであった。
 「わぁ、雑誌の写真と同じだぁ……」
 ふと、当たり前の感想を漏らしてしまう。
 「どうもはじめまして。赤阪です」
 赤阪さんは優雅な仕草で自己紹介をする。
 「あ、こちらで告知しましたとおり」 赤阪さんは扉の張り紙を指し、「プレビューイベント、というのを行います。開発中のゲーム画面をみていただけますので」
 おお、とクリムゾナーから静かな歓声が上がる。
 「でも、いまここには8人いますよね……。6人までって……。最初は誰が行くんでしょう」
 「あ、自分はあとでいいデスよ」 閣下は遠慮して言った。
 「まあ、見られる見られないじゃなくて単に早いか遅いかだけの問題デスから。じゃあ、いまよしぼーさんよりそちら側にいらっしゃる6人で行きましょう」
 「じゃあ、それでいいですか?」 赤阪さんが確認する。
 誰からも異議は出ない。第一回プレビューイベント参加者は決まった。
 羽曽部デスさん、上州マンさん、淳治さん、とらぶる銘菓さん、猿人ヴァーゴンさん、そして私・斑猫賢二。
 我々6名は、聖地・エコ−ル社の扉をくぐった……。


 (続く)

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